『中国語教育』第17号(2019年3月31日発行)の要旨を公開しました。
『中国語教育』第17号(2019年3月31日発行)の要旨を公開しました。
この授業で用いる場面状況は以下とする。
「あなたは留学生をサポートするボランティアグループに属しています。ボランティアグループは4人1グループとして活動しています。そこで、フランス語圏出身の留学生との交流会で自己紹介をすることになりました。自己紹介と共に自分の好きな芸能人、スポーツ選手について紹介する自己紹介シートを作成し、さらにその自己紹介シートを4人一組にして1枚のポスターにまとめます。発表は作成したポスターを元に口頭で行います。また、作成したポスターは留学生会館に掲示されます。」
上記の場面設定に必要な言語材料として、この授業では挨拶の仕方、自己紹介に必要な名前や年齢などの言い方、主語人称代名詞、第三者を紹介する表現、「私は〇〇のファンです。」といった定型表現を練習し、身につける。さらに、最初の授業という設定であることからフランス語の音声に十分なじむことから始める。
授業の最後ではフランス語圏出身の留学生に対してグループ(4人一組を予定)ごとに自分が好きな有名人の紹介を含む自己紹介を行う。発表は録画し、評価する。また、次の授業でフィードバックを行う。
この授業で用いる場面状況の設定は次のとおりである。
「あなたが参加することになった韓国語クラスの初回授業では、初対面のクラスメートとつながりを持つきっかけとして、自分の名前をハングルで書いた名刺を作り、基本的な挨拶の表現を交えた名刺交換を行うことになりました。」
この授業では、まず、韓国語の文字「ハングル」で人名を書くための表記法を確認し、自分の名前を書き入れた名刺を作成する。次に、グループのメンバーと協力し、ハングルパズルを完成させながら名刺交換の際に必要な表現を学習する。全体で発音を練習した後、自分の名刺を持って教室を回り、初対面のクラスメートと名刺交換を行う。最後のまとめとして、スクリーンに名刺を映し、クラス全体に対して一人ずつ挨拶する。
この授業では、声を使わず、目を合わせて手話を表出す言語の最も基本的なスキルを練習する。目を合わせること、必要に応じて手招きで相手の注意を引くことをまず身につけ、カフェで使用する決まった表現を自分で表出できるようにする。次に、カフェで注文する練習、およびカフェで客の注文内容を読み取り、注文の反復、金額を伝える練習をする。最後に、2人でペアになり日本手話で接客のやりとりをする。この様子をその場で評価する。
「友人の家のホームパーティーによばれて行ったところ、そこに何人かのスペイン語圏の人たちがいた」という設定のもとに、スペイン語圏の人々と知り合い、スペイン語圏の気軽に身につけるものをほめ合う文化を体験する。
授業の初めの部分では、初対面の人とスペイン語で挨拶する練習を通して、スペイン語の音声とリズムの大まかな特徴をつかむ。
つぎにペアで絵を使いながら身につけるものの名称をいくつか覚える。
続けて全員で、日本語ならどのように友人の服をほめるか、ほめられたらどのように反応するかを出し合って、必要な表現を想像したあと、スペイン語で同様の表現を言う練習をする。この中で形容詞の語尾変化についても学ぶ。
再びペアで写真を使って、いろいろなものをほめる練習をする。
最後にくじで決まったペアと、あいさつから始めて実際に相手が身につけているものをほめ、反応するところまでを演じて評価の対象とする。
この授業で用いる場面状況の設定は次のとおりである。
「あなたは、ドイツ語圏出身の同僚と知り合いになりました。その同僚は休暇中に中国 に行ってみたいと考えています。そこで、どの街に行ったら良いか、そこで何ができるかをアドヴァイスしましょう。」
この授業では、まず、中国の主な観光地の名称をドイツ語で発音し、「~へ行って下さい」という表現を学ぶ。その次に、観光に必要な基本単語(博物館に行く、劇場に行く、旧市街を見る等)を使って、「〇〇では~ができます」の定型表現を学ぶ。さらに、「良い旅を!」という、旅行に行く人へ向けて言う定型表現を学ぶ。
その後グループに分かれ、各チームでお勧めしたい都市、そこでできる活動を話し合い、グループでお勧めする都市と、そこでできることを絵に描き、ドイツ語で発表する。
(注:ここでは「中国」としているが、中国語を主に使う地域(台湾等)を行先に加えても良い。)
この授業で用いる場面状況の設定は次のとおりである。
「大のサッカーファンであるあなたは、仲間と一緒に、”FIFA World Cup 2018 Russia”の決勝戦を観戦するためにモスクワを訪れることにしました。短い滞在期間ですが、せっかくなので食事はすべてロシア料理にすると決めました。ロシア料理のルールにのっとり、メニューを見ながら食べたい料理を店員さんに注文します。」
この授業では、まず、ロシア語の音を聞くことに慣れ、ロシア語の音の特徴を実感する。次に、ロシア語の文字におおまかに慣れ、キリル文字の表と照らし合わせれば、メニューに書かれている料理名が想像できるようにする。ロシア料理が給仕される際の特徴を知り、ロシア料理のルールにのっとって、自分の食べたい料理を店員に注文するための練習・客の注文を取るための練習をする。
最後に、ロシア料理レストランで料理を注文する・給仕する様子を演じる活動をする。この様子をビデオに撮って評価をする。
1)学習者の立場から
・教師がふだん忘れがちな、学習者が抱きがちな情意(授業、教材、教師、周囲の学習者……への感情など)を再確認する。
・ある言語をまったくのゼロから始めるときに感じる不安、期待、楽しさを再確認する。
2)教師の立場から
・言語項目の導入から始めてコミュニカティブな目標に達するサイクルを、1コマ(90分)の授業で実現する方法もあることを示す。
・ある程度構造に関する知識を積み上げないとコミュニケーション活動に移れないという考え方に対し、反例を示す。
・ 自分が教える言語以外の言語では、言語固有の問題点としてどのようなものがあるのかを理解する。
日本国内で「外国語の教師」をしているものは団結して、日本の教育の中で日本語以外の言語を学ぶことの重要性を訴えていかなければなりません。「外国語教育」が軽んじられてしまえば、特に英語以外の外国語教育が軽んじられてしまえば、中国語教育の重要性を個別に訴えたところで、その効果には限界があります。このため、まず、日本国内の教育機関で教えられる機会の多い言語として、独・仏・韓・露・西の5言語を選びました。さらに、手話言語は、世界各地に存在する、それぞれが別個の言語体系をもった言語であり、日本手話もそのうちの1つです。日本手話は、誤解されることも多いのですが、実は、日本語とは異なる語彙・文法の体系をもった独自の言語であり、またろう者のコミュニティでは母語として使用される自然言語でもあります。つまり、日本手話は、日本国内の少数言語の1つであり、教育機関で教えられる機会はまだ少ないのですが、身近な言語として選ばれるべき言語と考えることができます。
東京都出身。上智大学外国語学部英語学科卒業。浦和市立高校教諭を経て、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)修士課程、博士課程修了、Ph.D.(応用言語学)。大東文化大学外国語学部英語学科助教授、コーネル大学現代語学科助教授、同アジア研究学科准教授(tenured)、 ピッツバーグ大学言語学科教授などを経て、現在ケースウエスタンリザーブ大学現代語・文学科教授(Eirik Borve Professor of Modern Languages)。 国立国語研究所客員教授、上智大学国際言語情報研究所客員研究員。専攻は、応用言語学、言語習得論。著書に、『外国語学習に成功する人、しない人』(岩波科学ライブラリー、2004)、『外国語学習の科学』(岩波新書、2008)、『しゃべる英文法(コスモピア、 2009)』『英語はもっと科学的に学習しよう』(中経出版、2013)『ことばの力学』(岩波新書、2013)などがある。